民族音楽ミニ辞典

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歌唱法編民族楽器編演奏家/歌手編

☆ここで使用しているカタカナ表記は、実際の発音と異なる場合があります。


▼歌唱法編

モンゴルの声楽
モンゴルの声楽には、三つのタイプがあります。一番目はハイラフという「叫び声」や「うなり声」的な歌い方で、トールチ(吟遊詩人)が弾き語る朗踊調の「だみ声」がこれに分類されます。二番目はドーラフ(歌う)やアヤラフ(旋律をつける)と呼ばれる一般的な民謡の歌唱法で、さらにオルティンドー(長い歌)とボギノドー(短い歌)に分けられます。三番目はホーミーと呼ばれるもので、ハイラフ調の低音をベースに、口腔を技巧的に使って倍音を響かせるものです。
オルティンドー
「長い歌」の意味を持つ、モンゴル民謡の代表的な歌唱法です。オルティンドーは豊かな声量で音を自由に長く伸ばして歌うのが特徴、喉を巧みに操り何通りものビブラートを使い分けます。日本民謡の追分と良く似た雰囲気を持っており、ペンタトニック(半音のない5音階)の音階で哀愁を帯びた独特のメロディーとなっています。オルティンドー歌手は国民栄誉賞に輝く女性の「ノロブバンザト」と「ネルグイ」、男性ではやはり国民栄誉賞の「ドルゴリン・バトトゥムル」が有名です。
ボギノドー(ボグンドー)
「短い歌」の意味。この民謡の特徴は、リズムが規則正しくはっきりとしていること。歌詞は風刺や皮肉を利かせた内容のものが多く、速いテンポで歌われます。と言っても、なかにはスロー・テンポの曲もあったりします。ポイントは、インテンポでリズム感があることでしょうね。そのぶん、表情が華やかでオルティンドーよりもややポップス感覚。日本人には、ボギノドーのほうが親しみやすいと思います。
ホーミー
喉歌。ホーメイ。声帯を振動させながら気管や口腔で倍音を共鳴させ、同時に二つの音声(ときには三つの音声)を発する技巧です。西モンゴルのアルタイ地方で発生した唱法と言われています。鼻のホーミー、口と鼻のホーミー(ハリフラー)、声門のホーミー(ボービル)、胸のホーミ−、喉のホーミーの5種類があるそうです。なかでもトゥバ共和国は盛んで、フーン・フール・トゥ(男性ホーメイ・グループ)を始めとする完成度の高いアーティストがいます。ちなみに、トゥバ共和国はモンゴルの隣の国です。
ところで、ホーミーの呼び方も国や地域によっていろいろ。中国ではホーリンチョールやコーミジュ、トゥバではホーメイやコーメイ。日本ではホーミーが一般的となっています。CDジャケットの英語には、khoomei(ホーメイ)のほかに、throat singing(スロート・シンギング=喉歌)なんて書かれていますよ。
☆モンゴルステーションでは「喉歌」のカタカナ表記について、モンゴル音楽では「ホーミー」、トゥバ音楽では「ホーメイ」を採用しています。

▼民族楽器編

馬頭琴(モリンホール)
モンゴルを代表する民族楽器。棹の先端に馬の頭部の彫刻が施されていることから、モリンホール(馬の楽器)と呼ばれています。弓と弦も馬の尻尾の毛で作られています。台形の胴を両膝ではさみ、弦の張ってある面を客席に向けて弓で弾きます。音色は野性味あふれる力強さと甘く切ない繊細さを兼ね備え、二弦楽器とは思えないほど豊かな表情です。この音色について・・・。何年か前になりますが、最初に生演奏を聴いたのはムンフバットという若手で「津軽じょんがら節」のようにダイナミックな弾き方でした。次にブーホーという奏者を聴いたのですが、まったく違っていましたね。情感たっぷりでロマンチックな弾き方でした。まるでチェロ奏者のヨーヨー・マのような感じで聴き惚れてしまいました。女性の馬頭琴奏者はモンゴルでも珍しいそうですが、ウヤンガというかなり若い奏者を聴きました。これがまたいいんですよね。何がって? ぽっちゃりとしたモンゴル美人だったんです。
馬頭琴
シャンズ
三線。日本の三味線に似た楽器です。そもそもは中国の楽器で元明時代に伝わったとか。骨で作られた直径1cm、長さ10cm程の円柱形のバチで弦を爪弾いて演奏します。
ヨーチン
楊琴(西洋琴)。台形のテーブルが共鳴箱になっていて、上部に弦が張られています。それを竹製のスティックで木琴のように叩いて演奏します。ピアノと同じ打弦楽器ですが、琴なのでピアノほどの迫力はありません。どちらかというと軽やかで繊細な音質です。ヤタグを原型にハープなどの西洋楽器を合体させたものとか。ホーミーの伴奏によく使われます。インドのサントゥール(ヨーロッパなどではダルシマと呼ばれている)と親戚関係の楽器です。
ホーチル
二胡。四弦楽器ですが少し変わっています。一弦と二弦、三弦と四弦のグループになっていて、それぞれが同じ音程に調弦されます。したがって、一見は二弦楽器のようです。演奏のとき、各グループの弦を同時に弾きます。ユニゾンの厚みのある音質になるというわけです。ドルボン、オタスタイ、ホールとも呼ばれています。
ヤタグ
日本の琴によく似た形をしています。と言うよりも、日本の琴のルーツです。ただし、演奏のときは床に置きません(私が単に、見たことがないだけかも?)。椅子に座り、膝の上に乗せます。大きさが人間の背丈くらいあって結構重いので、斜めに構え一方の端を床で支えて安定させます。一般的には14弦です。
ヤタグ
リンベ
横笛。六つの指孔をもつ吹奏楽器で、竹、木、金属などで作られています。チベットのグリン(グ=鷹、リン=笛)に由来しているとか。ツォール(縦笛)よりも音域が高く、華やかな音色となります。モンゴルの民族音楽は動物を題材にしたものが多く、このリンベで小鳥のさえずりを見事に表現します。
ツォール
縦笛。リンベよりも大きめの吹奏楽器で、主に中音部から低音部を受け持ちます。アンサンブルの中で使われることが多いようです。コンサートでは、リンベとツォールは同じ奏者によって演奏されています。モンゴル国立歌舞団のガントムール(日本モンゴル文化協会主催「モンゴル国立歌舞団コンサート」1998年9月24日新宿文化センター大ホールで来日)は、息継ぎをしないで長く演奏することができ、他の演奏家には真似のできない卓越した表現技術をもっています。
ヘル・ホール(口琴)
ホムス。ジューズハープの一種。CDを聴いているとき、この楽器が登場するとすぐにわかります。ビヨ〜ン、ビヨ〜ンという独特の音色をもっているからです。これがけっこう快感で病みつきになるかもしれません。マウス・ハープと呼ばれるように小型の楽器で、竹製、金属製があります。口を使って音を出す楽器のなかでは最も原始的な構造となっています。ビブラートや音色の微妙な変化を付けることができます。アイヌにも似たような楽器があり、ムックリと呼びます。
イギル
馬頭琴の原型となる2弦楽器(3弦もある)です。弦と弓はそれぞれ、馬の尻尾の毛100本程を束ねて作られています。共鳴胴の部分は馬頭琴のような箱形ではなく、楕円の舟形で竿の部分が長めです。その昔は1弦だったとか。時代が進むに連れて弦の本数が増えるようです。
ドシプルール
イギルと同じ馬頭琴の原型楽器です。イギルが弓で弾くのに対して、こちらは指あるいは爪を使ったストローク奏法やアルペジオ奏法(分散和音)で弾きます。最近は、指でなくピックを使うようになっています。英語でトゥバン・バンジョーと紹介されているように、音色は堅くはっきりとしています。モンゴルやトゥバ民族音楽の中にも、ブルース音楽のブギウギに似たリズミックな旋律があり、そんな曲ではこのドシプルールが活躍します。トゥバの人気ホーメイ・グループ「フーン・フール・トゥ」はこの楽器をよく使っています。
ビザーンチ(byzaanchy)
4弦楽器。2弦づつ束になっているので2弦のように見えます。形状は、大きな木槌に似ています。工事現場で杭を打ち付けるときに使用する、あの木槌を想像してください。実にそっくりです。弾き方は馬頭琴やイギルと同じで弓を使います。弓は逆手(手の甲を下に向ける)に構えます。チェロなど西洋の弦楽器は弓を順手(手の甲を上に向ける)に持つのですが、モンゴルやトゥバの弦楽器はだいたい逆手です。逆手だと力が入らないので、やさしい弾き方になりますね。でも、なぜなんでしょうね。
太鼓
シャーマン・ドラム。シャーマンが祈祷のときに使う太鼓でタンバリンを大きくしたような形状をしています。宗教儀式の道具として使うもので、普通は演奏で使用することはありません。しかし、アーティスト系ミュージシャンの中には、アンサンブルにうまく取り入れて独特のサウンドを創りあげている人たちもいます。トゥバでは、タングル(tuugur)あるいはケンギルゲと呼ばれています。

▼演奏家/歌手編

モンゴル国立歌舞団
1951年に設立された国立楽団。モンゴルの各部族に伝承されている芸能を収集し発展させることを使命としています。国賓を歓迎するレセプションなどで演奏するほか、海外に招待されることも多く、創作民謡や外国の曲なども積極的に取り上げています。民族楽器の名手が揃っていることでも有名。国民栄誉賞に輝く女性オルティンドー歌手「ネルグイ」、リンベやツォールを息継ぎなしで長く吹けることで知られる「ガントムール」などが所属しています。
チ・ボラグ(チ・ボリコー、馬頭琴=モリンホール演奏家)
1944年生まれ。中国(内モンゴル)のホルチン出身。モンゴルに存在する馬頭琴の演奏流派のすべてをマスターしていると言われています。1978年に中国の政府代表団として海外で演奏。馬頭琴演奏家としての彼の名は、このころから海外でも有名になります。1985年に初来日、それ後7回わたり来日しています。西洋のチェロを参考にして馬頭琴の改良に貢献。現在使われている多くは、彼が指導制作したモデルだそうです。中国国家一級演奏委員、モンゴル人民共和国国立芸術大学教授ほか。
ノロブバンザト
ナムジリーン・ノロブバンザト。1931年生まれ。モンゴルでナンバー・ワンと言われている女性のオルティンドー、ボギノドー歌手です。1957年にモンゴル国立歌舞団に所属しデビュー。同年にモスクワで開催された第6回世界青年学生祭典、民俗芸術コンクールで金メダル。その後は数々の賞を獲得。1981年には国民栄誉賞に輝いています。
ネルグイ
アディルビシーン・ネルグイ。モンゴル国立歌舞団に所属。国民栄誉賞に輝くモンゴルを代表する女性オルティンドー歌手。現役歌手としては現在、実力ナンバー・ワンと言えます。日本モンゴル文化協会主催「モンゴル国立歌舞団コンサート」(1998年9月24日新宿文化センター大ホール)で来日しています。
フーン・フール・トゥ
モンゴルの隣の国トゥバ出身(モンゴル民族)、男性4人組のホーメイ(ホーミー)グループ。テープレコーダーなどの録音機材がない昔、その古き良き時代の民族音楽を掘り起こし、独自の演奏スタイルで蘇らせています。生の古典楽器によるロックバンドといったところか。モンゴルのホーミーはその演奏自体を重視しますが、トゥバのホーメイはあくまでも歌(あるいは歌詞)が中心で、その中で使用されるスタイルになっています。詳しい解説と写真は「フーン・フール・トゥ」コーナーをご覧ください。
【メンバー】アナトリ・クーラル(Anatoli Kuular)1965年生まれ→ビザーンチ担当。その他の楽器は、ホムス(口琴)、アマルガ(鹿の鳴き声を真似る角笛)ほかのホーン楽器、エディスキ=ediski(鳥の鳴き真似をする楽器、唇にくわえて鳴らす小さなもの)
カイガルオール・ホバルィク(Kaigal-ool Xovalyg)1960年生まれ→グループのリーダー、イギル担当。その他の楽器は、ドシプルール。
サヤン・バパ(Sayan Bapa)1962年生まれ→ドシプルール担当。その他の楽器は、馬頭琴、アコスティック・ギター☆コンサートでは司会を担当(英語)
アレクセイ・サルィクラル(Alexei Sariglar)1966年生まれ→パーカッション担当。タングル(tuugur)あるいはケンギルゲと呼ばれる太鼓が中心。その他のパーカッションは、ベル(小型でやや平たい形状のものを2つ)、ドゥユッグ(馬のひづめ=2つで打ちならす)、ハップチェック(マラカス系=革の袋の中に動物の骨が入っているものを上下に揺らす)、鳴きまね(鳥=カッコウ、虫)

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