| 【解説書の一部】 パキスタンのガザル |
| ガザルはインド音楽の中では歌詞を優先した軽めの音楽である。 インド音楽の一ジャンルとしてのガザルは、現在、北の古典音楽(クラシック)の中でも、「ライト・クラシカル」という微妙なところに置かれている。ライトは「軽い」の意で、要するに「軽めの古典音楽」である。その対極にある「重い」ジャンル、バリバリのクラシックをあげれば、北インドだと、例えばダーガル兄弟の歌うドゥルパドとか、ビームセン・ジョーシーの歌うカヤール(「北インドの古典音楽〜魂のカヤール」)などであろうか。この軽重は、歌う時に歌詞を優先するか、ラーガ(北インドではラーグと発音)と呼ばれる難しい旋律上の規則を優先するかという基準で分けられる。ガザルには、ラーグの名前があげられていることもあるが、歌詞優先の音楽の代表格である。むろん、旋律的なアドリブや技巧に優れ、声も(ついでに歌手の見た目も)良いに越したことは無いが、まず詩が良くなくては始まらない。 女性歌手アーシャー・サマンの歌唱力に聞きほれる。 このCDの歌い手のアーシャー・サマンはパキスタンのムルターン生まれ。若干20代、歌い始めて10年と言う若手だが、ベテランのサーランギー奏者、アッラー・ラカー・ハーンが私に「この年でなかなかここまでデキルものじゃないんだよ。」と語る実力派。彼女の歌うガザルは「ライト・クラシカル」のスタイルに沿うものである。時代は変わりつつあるとは言え、イスラーム教国のパキスタンでは、まだまだ女性が人前で歌うこと自体一般的ではない。その中で歌手になることを決めた彼女のガザルにかける情熱は、半端なものではあるまい。レパートリーの数を尋ねたら1000は下らないという。 インド音楽を代表する楽器が伴奏を務める。 伴奏楽器として、小型のリードオルガン、ハールモーニヤムと伝統的な擦弦楽器サーランギー、そして竹の横笛バーンスリーが用いられている。リズムを刻んでいるのは、北インドを代表する2個一対の太鼓タブラ・バーヤーンである。中でもサーランギーは、弦を左手指の爪で脇からおさえる難しい楽器で、昨今ではきちんと演奏できる奏者が少ない。今回、演奏に参加しているアッラー・ラカー・ハーンは演奏歴50年のベテラン。バーンスリー奏者のサラーマット・フセインと共にパキスタンの代表的な演奏家で、単なる伴奏を越えたしっとりとした演奏を聞かせてくれる。 |